ロボット手術robotic surgery

ロボット手術を2019年7月から開始しています

1999年にインテュイティブサージカル社によって外科医が遠隔操作できる手術用ロボット、da Vinci Surgical Systemが初めて登場しました。2014年度から前立腺癌に対し保険承認され、2018年度から呼吸器外科領域でもロボット手術が承認されました。
当科では肺がんや縦隔腫瘍に対しては胸腔鏡による身体の負担の小さな手術(低侵襲手術)を行ってきました。2019年7月からはda Vinci Xi Surgical System(ダヴィンチ Xi サージカルシステム)によるロボット手術を開始し、より低侵襲で精密な手術を目指しています。
呼吸器外科手術では、肋骨や背骨に囲まれた胸腔という狭く深い空間で心臓の拍動の影響を受けながら緻密な手術操作が要求されます。難易度の高い手術ですが、ロボットテクノロジーにより、外科医は人間より優れた視覚を得、より自由な手術操作が可能になります。ロボット手術は7つの関節を持つ鉗子を遠隔操作することにより、胸腔内での緻密な操作にとても有用です(図1、2、3)。

<図1> da Vinci Xi Surgical Systemの
セットアップの様子
<図2> 執刀医は患者さんから少し離れた「コンソールカート」で
ロボットを遠隔操作します。
<図3> ロボット手術の実際。(左肺上葉切除術)
7つの関節を持つ鉗子で、
繊細な血管の裏の剥離も自由にできます。

ロボット手術の実績

当科では2020年5月現在、肺がん、縦隔腫瘍を併せて31例の手術実績があり、短時間かつ安全に手術を終えています(図4)。肺気腫や肝硬変、糖尿病などの持病がある患者さんにも手術を行った実績があります。ロボット手術の執刀には、規定のトレーニングを修了したインテュイティブ社認定ダヴィンチ執刀医の資格が必要です。(図5)現在、非常勤のロボット手術指導医を含め、経験豊富な2名の認定執刀医(橋本昌樹講師、山本亜弥助教)を中心としたチームによりロボット手術を行っています(図6)。

<図4> ロボット支援下肺葉切除術の初期連続25例の手術時間
(コンソール時間…ロボットを操作している時間)
経験豊富な2名のインテュイティブ社認定
ダヴィンチ執刀医が在籍しています <図5>
<図6> 外科医が中心となったロボット手術チームにより
安心して治療を受けて頂けるように努めています。

ロボットテクノロジーにより、
外科医は人間の能力を超える手術が可能に

ロボット手術は胸腔鏡手術とは似て非なるものです。ロボットテクノロジーを利用したダヴィンチ手術では、従来の胸腔鏡手術に比べて様々なメリットがあります。

1.人間より優れた視覚

ダヴィンチ手術ではダイナミックな視覚を手に入れることができます。カメラは3Dハイビジョンで、最大14倍ものズームが可能、高精細で鮮やか、まるで体内に自分が入り込んだかのようです。


2.手ブレがなく繊細な動き

Tremor filteringというテクノロジーによって外科医の手ブレはほとんど除去されます。極めてスムーズで繊細な操作が可能になります。


3.直感的な操作が可能

完全胸腔鏡では特殊な操作による慣れが必要でしたがダヴィンチ手術では直感的操作が可能になり、まるで開胸のような感覚で手術を行うことができます。


4.人間より多い関節で自由な操作性

最大の魅力は多関節であることです。ダヴィンチは7つの関節を持ち人間の手より自由度が高いため、狭い胸腔内でデリケートな血管周囲では組織に負担をかけることなく繊細な手技が可能です。


5.外科医は疲れにくく集中力の持続が可能

外科医にとって長時間の立位での手術は身体的疲労に繋がっていました。ロボット手術ではコンソールカートというドックで快適な座位で手術をするため、身体的疲労から解放されます(図7)。集中力が維持でき、ヒューマンエラーの軽減が期待されています。


<図7> 執刀医は座った状態でロボットを遠隔操作します。

ダヴィンチ Xi サージカルシステム
によるロボット手術の
実際の様子を動画で紹介します。
(実際の手術映像も含まれています。ご気分に差し障る方は閲覧をお控えください)

ロボット手術の患者さんにとっての魅力は低侵襲

ロボット手術は、肋骨の隙間にポートという小さな孔を4から5個開けて手術を行います。従来の手術より小さい創で手術が可能で、体への負担が少なく、そのため出血量、合併症、痛みを減らし、早い回復、社会復帰につながることが期待されています。(図8)。

<図8> 患者さんがロボット手術に期待できるメリット

ロボット手術の弱点とその克服

新技術には大きなメリットがありますが、デメリットが一つもない訳ではありません。弱点を理解し克服するのが外科医の使命です。
ロボット手術では、執刀医が実際の術野から離れて操作するため緊急時の対応などの懸念がありますが、緊急時に早急にロボット手術チームとして対応できるよう、日頃からトレーニングを行うなどの対策を行っています。
最大の弱点は触覚が全くないことですが、これは高精細な視覚で補うことができます。肺の手術では「硬い」気管支や「軟らかい」血管を剥離する操作が必要ですがこれらの触覚は全くありません。そのため「硬そう」「軟らかそう」という視覚的情報から得られる「擬似触覚」を頼りに手術をします。3Dハイビジョン画像を上手く利用すると、この弱点は十分克服できます。

詳細は当科スタッフへお問い合わせください

このようにロボットテクノロジーを利用して、外科医は人間の能力以上の視覚や繊細さを手に入れることができます。ロボット手術は新しい技術ですので、学会や研究会活動などを通じた技術交流を精力的に行うことで、技術の向上や後進の育成に努めています。
現在、呼吸器外科領域におけるロボット手術の保険適応は肺がん(葉切除および区域切除)、縦隔腫瘍、重症筋無力症です。詳細は当科スタッフへお問い合わせください。